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更新日:2026/9/24

【児発・放デイ】虐待防止研修の「事例検討」で学ぶ体制づくりのポイント②

著者:井上琢也

/社会福祉法人白百合学園/こども発達支援研究会機関研究員

児発・放デイでは、虐待防止研修の「事例検討」をどう進めればよいのか悩む方も多いでしょう。今回は第2弾として、放デイの事例をもとにした討議・進め方のポイントを、児童発達支援センターのセンター長である井上琢也先生に解説していただきました。

  • ※本記事はすべての関連情報や各指定権者の解釈等を網羅するものではありません。記事の内容には万全を期しておりますが、実務においては必ずご自身でも指定権者および関係⾏政などの最新情報をご確認ください。
    目次

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    ※第1回目(児発の事例)の記事はこちら 

    1.虐待防止研修における「事例検討」の重要性

    児童発達支援・放課後等デイサービスでは、法定研修として「障害者虐待防止研修」を年に1回以上行う必要があり、その研修方法の1つに「虐待防止の事例検討」が挙げられます。

    厚生労働省の手引きでは、この「事例検討」は、内部の経験豊富なスーパーバイザーなどによる助言を得て行うことで、見落としていたニーズの発見や支援の質の向上につながるとされています(※)。

    ▼虐待防止研修の概要についてはこちら

    事例検討のSTEP

    そこでこの記事では、放デイの現場で起こり得るケースを取り上げ、次の3つのSTEPで事例検討を行っていきます。

    • STEP 1:事例紹介

    • STEP 2:「担当者・チーム・管理者」の視点から討議のポイントを紹介

    • STEP 3:「子ども理解・支援者理解・組織理解」の視点から筆者が事例解説

    ※事例は、特定の事業所や個人を指すものではなく、現場で起こり得る状況をもとに構成した架空のものです

    ※参照
    障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き 令和6年7月」厚生労働省、P.20~21

    2.STEP1 事例紹介:「今日はやりたくない」と言うCくんのケース

    今回の事例では、支援者の「できるようになってほしい」という想いから、本人の「やりたくない」気持ちよりも、課題への取組みを優先してしまう場面を見ていきます。

    併せて、本人の意思を尊重しながら必要な経験をどう支えるか、担当者・チーム・管理者の視点から考えていきます。

    【事例】

    放課後等デイサービスを利用している小学3年生のCくん。書くことに苦手さがあり、学校で1日過ごしたあとは疲れが出やすくなることがあります。
    個別支援計画では、「書く負担を少なくしながら、本人に合ったやり方や量を選び、無理のない範囲で課題に取り組めるようにする」という目標を立てていました。
    
    ある日、個別課題の時間になり、職員Aがプリントを準備すると、Cくんは「今日はやりたくない」と言って席を離れようとしました。職員Aは、「少しだけがんばろう」「終わったら一緒に好きな遊びをしよう」と声をかけますが、Cくんは「やらない」を繰り返します。
    
    職員Aは、「苦手だからといって毎回やめていたら、できるようにならない」「計画にも課題に取り組めるようにすると書いてある」と考え、再び着席を促しました。
    しばらくすると、Cくんはプリントを机から払い落とし、大声を出しました。
    
    あとから職員Aは、「できた経験を積んでほしかった。嫌なことから毎回逃げるようにはなってほしくなかった」と振り返りました。

    3.STEP2 討議ポイント

    この事例を見て、「嫌がっているのだからやめればよかった」と感じる方もいれば、「少しがんばる経験も必要なのでは」と考える方もいると思います。ここで大切なのは、どちらが正しいのかをすぐに決めないことです。

    担当者の視点:なぜ、職員Aは続けようとしたのか

    あなたが職員Aだったら、どのようなことを考えていたでしょうか。

    次のような想いがあったのかもしれません。

    ■ できた経験を積んでほしい
    ■ ここでやめたら、次もやらなくなるかもしれない
    ■ 苦手なことにも少しずつ取り組めるようになってほしい

    一方で、Cくんの「今日はやりたくない」という発言の背景には、学校での疲労、書くことへの負担などがあったのかもしれません。

    また、計画にあった「本人に合ったやり方や量を選び、無理のない範囲で」という部分の捉え方も重要になるでしょう。

    チームの視点:どのような選択肢があったのか

    今回の場面では、「課題をする」か「何もしない」かの二択になっていた可能性があります。しかし、以下のように、目標を大切にしながらも、その日の状態に合わせて方法を変えることができたかもしれません。

    ■ 課題の量を減らしたり、書く方法を変える
    ■ 1問だけ一緒に取り組む
    ■ 本人に方法を選んでもらう
    ■ その日は課題を休み、別の日に取り組む

    また、職員Aが「今日はここまでにしよう」と判断したとき、それをチームとして認められる関係性があったのかも振り返りたいポイントです。

    管理者の視点:支援目標をどう共有していたのか

    個別支援計画には、「本人に合ったやり方や量を選び、無理のない範囲で」と書かれていました。それでも実際の支援では、「課題に取り組むこと」が優先されました。

    目標の言葉だけでなく、以下のように、「日々の支援でどう判断するのか」までを共有しておくことが重要です。

    ■ 本人がどのような状態なら取り組むのか
    ■ 本人が難しさを示したときはどうするのか
    ■ 「今日はやめる」という判断は誰ができるのか

    4.STEP3 筆者解説

    今回の事例は、「課題に取り組んでほしい」という支援者の想いから始まっています。ただ、Cくんがどう感じているのか、今どんな状態なのかを十分に確認しないまま活動への参加を求め続けると、その関わりが本人にとって大きな負担になることがあります。 

    そこで、以下の3つの視点から振り返ります。

    子ども理解(「やりたくない」は何を伝えていたのか)
    支援者理解(「できるようになってほしい」が「やらせなければ」に変わるとき)
    組織理解(個別支援計画の意図を、チームで共有できているか)

    ①子ども理解:「やりたくない」は何を伝えていたのか

    Cくんの「やりたくない」を、「課題から逃げている」「がんばりたくない」とだけ捉えると、その背景を見落としてしまうかもしれません。

    学校で1日過ごした疲れ、書くことへの負担、その日の課題の量や難しさ。いくつかの要因が重なっていた可能性があります。

    子どもの意思を尊重すると言うと、「嫌と言われたらすべてやめること」と捉えられる場合がありますが、私はそうではないと考えています。まず表出を受け止め、「何が難しいのか」「どうすれば参加できそうか」を一緒に探すことも支援です。

    大切なのは、「どうすれば取り組ませられるか」ではなく、「どうすれば参加しやすくなるか」という視点に立ち戻ることです。

    ②支援者理解:「できるようになってほしい」が「取り組ませなければ 」に変わるとき

    職員Aには、Cくんの成長を願う想いがありました。ただ、「できるようになってほしい」という想いに、「自分が取り組ませなければ 」という焦りが重なると、支援の目的がすり替わってしまうことがあります。

    本来の目標は、プリントを終わらせることではありません。Cくんが自分に合った方法や量を選び、「難しい」「手伝ってほしい」などと伝えられる経験も、大切な成長です。

    「やりたくない」という想いの尊重は、目標を諦めることではありません。「やる・やらない」の二択ではなく、その間にある選択肢を考えることが大切です。

    なお、支援者の背景を理解するのは、不適切な関わりを正当化するためではありません。なぜ、そのように考えたのかを振り返ることが、同じ関わりを繰り返さないために必要です。

    ③組織理解:個別支援計画の意図を、チームで共有できているか

    個別支援計画は、「書かれた内容を職員がどう理解し、日々の支援でどう判断するのか」まで共有されていることが重要です。

    そして、個別支援計画の運用では、本人の状態や気持ちを確認し、必要であれば方法や環境を変えることが求められます。そのための共通理解を、チームでつくっていくことが必要です。

    今回の場合、管理者は「目標に取り組めているか」だけでなく、以下の点にも目を向けましょう。

    ■ 本人の意思が反映されているか
    ■ 本人が方法や量を選べるか
    ■ 本人が難しさを示したときに方法を変えられるか
    ■ 職員が迷ったときに相談できる体制があるか

    「取り組ませること」と「支援すること」は同じではありません。本人の声を受け止めながら、その子が参加できる方法を探す。その判断を1人の職員に任せず、チームで考えられるようにしておくことが、不適切支援を防ぐ体制づくりにつながります。

    5.虐待防止の内容をスタッフに浸透させるには?

    (執筆:発達ナビ編集部)

    以上、「虐待防止研修の事例検討」について井上先生に解説していただきました。虐待防止を徹底するには、スタッフ全員が内容を正しく理解し、意識を高めることが重要です。

    こうした内容の浸透には、LITALICO発達ナビの研修教材サービスが役立ちます。虐待防止研修やBCPなどの研修に活用できる解説動画をはじめ、支援に関する研修動画などを多数ご用意しています。

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    専門家執筆による「相談援助」や「環境調整」などのコツをまとめた記事もございます。ぜひご覧ください。

  • 著者:井上琢也

    社会福祉法人白百合学園/こども発達支援研究会機関研究員

    OFFICE C.S代表。児童福祉・発達支援の現場で、社会的養護、相談支援、虐待対応など幅広く実践。現場経験を基盤に、人材育成や組織づくり、支援の質向上に取り組む。虐待防止を個人の力量だけに頼らず、組織・体制づくりの視点から研修・SVを行っている。

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