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更新日:2026/8/18

【児発・放デイ】虐待防止研修の「事例検討」で学ぶ体制づくりのポイント①

著者:井上琢也

/社会福祉法人白百合学園/一般社団法人こども発達支援研究会機関研究員

児発・放デイでは、虐待防止研修の「事例検討」をどう進めればよいのか悩む方も多いでしょう。この記事では、事例をもとにした討議・進め方のポイントを、児童発達支援センターのセンター長である井上琢也先生に解説していただきました。

  • ※本記事はすべての関連情報や各指定権者の解釈等を網羅するものではありません。記事の内容には万全を期しておりますが、実務においては必ずご自身でも指定権者および関係⾏政などの最新情報をご確認ください。
    目次

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    1.虐待防止研修における「事例検討」の重要性

    児童発達支援・放課後等デイサービスでは、法定研修として「障害者虐待防止研修」を年に1回以上行う必要があり、その研修方法の1つに「虐待防止の事例検討」が挙げられます。

    厚生労働省の手引きでは、この「事例検討」は、内部の経験豊富なスーパーバイザーなどによる助言を得て行うことで、見落としていたニーズの発見や支援の質の向上につながるとされています(※)。

    虐待防止研修の概要についてはこちら

    事例検討のSTEP

    そこでこの記事では、児発・放デイの現場で起こり得るケースを取り上げ、次の3つのSTEPで事例検討を行っていきます。

    • STEP 1:事例紹介

    • STEP 2:担当者・チーム・管理者の視点から討議のポイントを紹介

    • STEP 3:事例について、筆者が子ども理解・支援者理解・組織理解の視点から解説

    ※事例は、特定の事業所や個人を指すものではなく、現場で起こり得る状況をもとに構成した架空のものです

    (参照)

    2.STEP 1 事例紹介:座って食べられないBくんのケース

    今回の事例では、子どものためを想った職員の関わりが、結果として不適切支援になり得る場面を見ていきます。併せて、管理者としてその場面をどう見立て、チームの体制づくりにつなげていくかも整理していきます。

    【事例】

    児童発達支援事業所での一場面です。年長のBくんは、普段から姿勢を保つことや、周囲の音や動きが多い場面で落ちついて過ごすことに難しさがあります。
    
    午後のおやつの時間では、椅子に座ってもすぐに立ち上がり、部屋の中を歩き回っていました。職員Aは「座ろうね」と声をかけますが、Bくんはすぐに立ち上がってしまいます。周りの子どもたちも落ちつきがなくなり、職員Aは「就学も近いし、座って食べる練習が必要」「ここで許すと毎回同じになる」と焦り始めました。
    
    やがて、「何回言ったらわかるの」「座らないなら、おやつは食べられないよ」と強い口調になり、立ち上がろうとするBくんの肩に手を置いて、椅子に座らせ続けました。するとBくんは泣き始め、おやつを食べられなくなりました。
    
    あとから職員Aは、「落ちついて食べられるようになってほしかった。困らせるつもりはなかった」と振り返りました。

    3.STEP 2 討議のポイント

    この事例を、「職員の対応がよかったのか、わるかったのか」だけで考えてしまうと、話し合いは深まりにくくなります。

    管理者として考えておきたいのは、「職員Aがなぜその対応に向かっていったのか」、そして「同じようなことが繰り返されないために、チームとして何を見直せるのか」という点です。

    担当者の視点:なぜ、職員Aはこの対応に至ったのか 

    あなたが職員Aなら、この場面で何を感じていたでしょうか。

    職員Aは、Bくんに座ってほしいと思っただけでなく、様々な焦りや不安を抱えていたかもしれません。

    ■ 他の子どもたちが落ちつかなくなることへの焦り
    ■ 就学に向けて、今のうちに練習しておきたいという想い
    ■ 自分の声かけが届かないことへの不安 など

    そうした気持ちが重なると、職員は余裕を失いやすくなります。

    チームの視点:周囲がどう支えることができたのか 

    この場面を、他の職員はどのように支えることができたでしょうか。

    たとえば、職員Aの声のトーンが強くなる前に、周囲の職員が次のようにサポートに入ることができたかもしれません。

    ■ Bくんのそばに別の職員が入り、他の子どもへの対応を引き受ける
    ■ Bくんが少し落ちつける場所を用意する
    ■ おやつの前後の流れを、Bくんにわかりやすく伝える

    こうした関わりがあれば、職員Aが1人で抱え込まなくて済んだ可能性があります。

    また、Bくんがおやつの時間に負担を感じやすいことを、チーム内でどこまで共有できていたでしょうか。たとえば、以下の点の事前確認ができていたでしょうか。

    ■ その日のBくんの疲れ具合
    ■ Bくんの座る位置や周囲の刺激
    ■ 職員が支援に入るタイミング

    今回の事例は、職員Aだけの問題ではなく、チームとしてどう支え合うかを考える場面でもあります。

    管理者の視点:再発防止のために何ができるのか

    同じことが繰り返されないために、何が必要でしょうか。

    管理者としては、この出来事を担当職員だけの問題として終わらせないことが大切です。「強い言葉を使わないようにしましょう」「無理に座らせないようにしましょう」といった確認は、もちろん必要です。ただ、それだけでは同じようなことが繰り返される可能性があります。

    管理者としてまず見ておきたいのは、職員Aの言葉だけではなく、「なぜ、そこまで追い込まれていったのか」という背景です。

    ■ Bくんの特性理解やおやつの場面の支援手順は、チームで共有されていたのか
    ■ 困った時に交代できる雰囲気や、職員が「少し助けてください」と言える関係性はあったのか
    ■ 管理者は、職員が追い込まれている前兆に気づけていたのか

    不適切支援を防ぐためには、個人への注意だけでなく、チームの仕組みとして見直していくことが大切になります。

    4.STEP 3 筆者解説

    不適切支援と虐待の関係

    事例解説の前に、「不適切支援」と「虐待」の関係を整理しましょう。

    まず、不適切支援のすべてが、直ちに虐待に該当するわけではありません。一方で、現場で「不適切支援」と捉えられた関わりであっても、その内容や状況によっては、すでに虐待に該当する可能性があります。また、見直されないまま繰り返されることで、その関わりが強まり、より深刻な虐待につながることもあります。

    そのため、事例検討では「虐待に当たるかどうか」という線引きだけで終わらせず、以下の3つの視点から振り返ることが重要です。

    子ども理解(子どもに何が起きていたのか)
    支援者理解(支援者がなぜその対応になったのか)
    組織理解(組織としてなぜ防げなかったのか)


    なお、虐待が疑われる場合には、事業所内の検討だけで終わらせず、必要な報告や通報につなげる必要があります。それでは、上記3つの視点の振り返りについてご説明していきます。

    ①子ども理解(子どもに何が起きていたのか)

    この事例では、Bくんの「立ち歩き」が目立っています。しかし、行動だけを見て「座れない子」「指示が入らない子」と捉えると、必要な支援が見えにくくなります。

    Bくんには、姿勢を保つ難しさや、周囲の刺激への反応しやすさ、見通しの持ちにくさなどによる調整の難しさがあったのかもしれません。必要だったのは「座りなさい」と繰り返すことではなく、椅子の位置を見直す、活動の流れを見える形で伝えるなど、参加しやすい条件を整えることだった可能性があります。

    ②支援者理解(支援者がなぜその対応になったのか)

    職員Aには、「就学に向けて力をつけてほしい」「ほかの子どもたちも落ちついて過ごしてほしい」という願いがあったのでしょう。

    ただ、その願いに焦りや不安が重なると、「できるようになってほしい」が「今できなければならない」に変わり、関わりが強くなることがあります。職員に善意があったとしても、その不適切な関わり自体を曖昧にしてよいわけではありません。行為を止めたうえで、「支援者が何に困り、なぜその対応に至ったのか」を振り返ることが必要です。

    ③組織理解(組織としてなぜ防げなかったのか)

    この事例を「職員Aの言い方がきつかった」で終わらせると、同じことが繰り返されるかもしれません。

    「Bくんの特性や困りごとは共有されていたか」「職員Aが困ったときに、ほかの職員が交代したり、支えに入ったりできる体制はあったか」、管理者は、個人への注意だけでなく、支援方法や連携、相談しやすい関係性を見直す必要があります。

    虐待防止の本質は、日々の支援を振り返りながら、子どもにとっても職員にとっても安心できる支援の形を組織で育てていくところにあります。

    日々の小さな違和感を個人の反省で終わらせず、組織の学びに変えていくことが、不適切支援や虐待を防ぐ土台になります。

    おわりに

    支援者の多くは、「子どものために」と日々関わっています。だからこそ、その関わりが結果として子どもの負担や苦痛になっていないかを常に振り返り、不適切な関わりを見逃さない姿勢が大切です。 

    不適切支援は、特別な誰かだけに起こるものではありません。そのため、虐待防止研修の「事例検討」などを通じて、チームで共有して組織の学びに変えていく積み重ねが、虐待防止の取り組みとなり、子どもにとっても職員にとっても安心できる組織文化につながっていくのだと思います。

    5.虐待防止の内容をスタッフに浸透させるには?

    (執筆:発達ナビ編集部)

    以上、「虐待防止研修の事例検討」について井上先生に解説していただきました。虐待防止を徹底するには、スタッフ全員が内容を正しく理解し、意識を高めることが重要です。

    こうした内容の浸透には、LITALICO発達ナビの研修教材サービスが役立ちます。虐待防止研修やBCPなどの研修に活用できる解説動画をはじめ、支援に関する研修動画などを多数ご用意しています。

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    専門家執筆による「相談援助」や「環境調整」などのコツをまとめた記事もございます。ぜひご覧ください。

  • 著者:井上琢也

    社会福祉法人白百合学園/一般社団法人こども発達支援研究会機関研究員

    児童福祉・発達支援の現場で、社会的養護、相談支援、虐待対応など幅広く実践。現場経験を基盤に、人材育成や組織づくり、支援の質向上に取り組む。虐待防止を個人の力量だけに頼らず、組織・体制づくりの視点から研修・SVを行っている。

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