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更新日:2026/3/10

児発・放デイにおいて、ペアレント・トレーニング(ペアトレ)の要素を日々の関わりに活かすことは、より質の高い家族支援につながります。今回は、個別支援でのポイントや今日から使える「効果的なほめ方のコツ」などを、臨床心理士・公認心理師の深澤大地先生に解説していただきました。
【この記事のポイント】
ペアトレの概要: 保護者を「最も身近で最良な支援者」と考え、保護者に対して実施される。
支援の視点: ペアトレは「心」ではなく、「行動」に注目。肯定的な注目で子育ての好循環につなげる。
ほめ方のコツ: やさしい表情や声色で伝え、具体的かつ25%できた段階でほめる。非言語も効果的。
家族支援の手法の1つに、「ペアレント・トレーニング」(以下、ペアトレ)があります。これは1960年代にアメリカで開発された手法で、支援者が子どもに直接的に介入するのではなく、「子どもにとって最も身近で最良な支援者は保護者」という考えのもと、保護者の方に対して実施されます。
もともとは、ADHDの子どもをもつ保護者の方向けに開発されたものですが、現在は、すべての子どもに対して効果的な手法として注目されています。
ペアトレの対象は、3歳程度~10歳程度までとされています。3歳程度の理由は、言葉でほめられていることが理解できる年齢であり、10歳程度の理由は、保護者の方からほめられることが大きなパワーとなる時期の上限だと言われているからです(とはいっても、大人でもほめられたら嬉しくてやる気が出ますから、適切なほめ方は効果的だと言えます)。
※ペアトレの概要ややり方などについてはこちら
通常、ペアトレは5名〜8名程度で構成されるグループを対象に、10回程度(1回90分程度)のプログラムで行われます。しかし、ペアトレのすべてのプログラムを受講しなくても、そのエッセンスは保護者の方の日常の子育てに役立ちます。
こうした背景から、児発・放デイの支援者がペアトレの方法を習得し、日々の関わりに活かすことは、より質の高い家族支援(保護者の方への助言など)につながるのです。
ペアトレは、厚生労働省の「発達障害児者および家族等支援事業」でも取り上げられており、今、注目の家族支援の手法です。児発・放デイでは、個別や集団のペアトレを実践されていると思いますが、今回は「個別支援」のポイントについてご説明します。
「グループ・ペアトレ」のポイントについては、こちらを参照ください。
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まずは、ある家庭の事例を紹介したうえで、ペアトレのポイントについて見ていきます(架空の事例ですが、多くの家庭でこのような問題が起きています)。
小1のA君は、学校から帰宅するとランドセルを玄関に放り出し、そのままタブレットを手に取ります。保護者が「先に宿題をやりなさい」と声をかけますが、「あとで」と返事をするだけです。
しばらくして「そろそろ始めないと夕飯までに終わらないよ!」と少し強めに言うと、「今いいところなんだって!」と語気を荒らげます。夕飯の準備をしながら、保護者は「いつまでやってるの!」と言うと、A君は「うるさい!」と大声で言い返しました。
保護者は疲労困憊で、「自身の子育てが間違っていたのではないか」と自分を責め、ネガティブな感情を抱えて自己嫌悪に陥りました。困り果てた末に、保護者は勇気を出して、放デイの支援者に上記の悩みごとを伝え、「どうしたらいいですか?」と相談しました。みなさんは、この保護者の方の投げかけにどのように答えますか。先を読み進める前に、ご自身なりの返答を考えてみてください。
事例のような保護者の方からのSOSは特別なものではなく、どの事業所でも起こり得ます。そして、支援者の方が「お母さん(お父さん)大変ですよね」「もう少し、様子をみてみましょう」などと返答する場面に私はよく出会いますが、保護者の方は、具体的にどうしたらよいのかわからず、また同じ状況が家庭内で続いていきます。
この場面、私は支援者の方に「そのような相談を受けてどのような気持ちだったのでしょうか?」と聞くと、「うまく答えられずに歯がゆさを感じた」「適切なアドバイスができず、自身の課題を感じた」などと話してくださいました。
支援者の方が、このような状態のまま日々の業務にあたることは、支援の質向上につながらず、保護者の方との丁寧な連携も難しくなるなど、事業所の信頼維持にも影響を及ぼしかねません。こうした状況は、児発・放デイの安定した運営にとって課題となるでしょう。以上を踏まえ、次項からは、ペアトレの考え方や具体的なほめ方のコツについてご説明していきます。
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ペアトレは、上記のような家族支援で起こりがちな難しさを「保護者の問題」や「子どもの問題」にせず、この親子にとって現実的に取り組むことができる関わり方を一緒に探っていきます。今回は、個別支援におけるペアトレについて取り上げます。
まず、ペアトレは「心(気持ちや考え)」ではなく、「行動」に注目します。行動とは、「誰が見てもわかる、数えられる、具体的なもの」です。
先ほどの事例ではどのようなことが起きていたのか、行動に注目しながら整理したいと思います。
「①子どもが好ましくない行動をする(宿題をせずにタブレットで遊ぶ)」⇒「②保護者がイライラして止めるように言う」⇒「③しかし、子どもは宿題をせずにタブレットをやり続ける」⇒「④保護者はさらにイライラして、『いいかげんにしなさい!』と言う」この①⇒②⇒③⇒④の流れが、場面を変えながら家庭の中で日常的に繰り返されているのです。ペアトレではこの関わりを「子育ての悪循環」と呼びます。
ペアトレは、保護者の方に以下の内容を心理学の理論に基づいて説明し、保護者自身が子どもの困った行動に対応できる力を養うことで、「子育ての悪循環」を「子育ての好循環」に変化させていきます。
日常生活における子どもの行動の見方
その行動が起こる仕組み
行動を増やしたり減らしたりする方法 など
「子育ての好循環」とは、子どもの好ましい行動に注目し、その行動を効果的にほめることによって生じるポジティブなサイクルのことです。
「子どもの行動への見方」を理解したあとは、子どもへの関わり方である「否定的な注目」と「肯定的な注目」について整理しましょう。
否定的な注目とは、子どもの「好ましくない行動」に対して、「叱る、怒る、問いつめる、ため息をつく、険しい顔をする、仁王立ちをする」といったネガティブな関わり方を指します。
私たちは、「否定的な注目」を与えることで「好ましくない行動」が減ったり、なくなったりするだろうと思いがちですが、実際にはそうではありません。
逆に、「否定的な注目」をすることで、その「好ましくない行動」は増えていくこともあります。理由は、「好ましくない行動」をすることで保護者が自分を見てくれている(注目してくれている)と子どもは感じるからです。
これに関して、三田地真実・岡村章司(2019)は、「叱ってある行動を減らそうとしているのに、減らずに続いているのであれば、叱ることがその行動を強化している可能性があります」と述べています。「強化」とは、その行動が繰り返されるようになることを指します。
肯定的な注目とは、「子どもの好ましい行動」に対して、「ほめる、感謝する」といったポジティブな関わり方を指します。子どもは保護者からほめられたり、感謝されたりすると嬉しい気持ちになるので、こちらもその行動を繰り返すという心理学の「強化」の仕組みを用いています。
「子育ての悪循環」を「子育ての好循環」に変化させるためには、子どもの「好ましくない行動(宿題をせずにタブレットで遊ぶ)」に注目するのではなく、子どもが時々実行する「好ましい行動(タブレットで遊ぶ前に宿題を始めた場面)」を見逃さずに、効果的にほめるようにすることが重要です。

最後に、効果的なほめ方のコツをご紹介しましょう。
言葉で「偉かったね」と伝えても、表情が険しいとほめていることが伝わりません。ほめるときは、やさしい表情で伝えましょう。
言葉で「がんばったね」と伝えても、怒っているような口調だとほめていることが伝わりません。やさしさや嬉しさが伝わる声色・口調で接しましょう。
遠くからほめるのではなく、子どもの近くに行って、子どもの目を見ながらほめましょう。
「宿題を始めたんだね! 偉い!」のように、子どもが何をほめられているのかわかりやすいように具体的に伝えましょう。
最初は、ほめるときの表現が単調になってしまいがちです。ペアトレに参加する保護者の方も、「偉かったね、がんばったねくらいしか言葉が見つかりません」と言われます。しかし、たとえば「素敵だったよ」「かっこよかったよ」「上手だったね」「やるね~!」「すごい!」など、ほめ言葉にはたくさんのレパートリーがあります。
このレパートリーを増やしたいときは、他の保護者や支援者がどのように子どもをほめているかを観察してみるとよいでしょう。自分では気づかなかった「ほめ方」が見つかるはずです。
ペアトレには「25%ルール」というものがあります。これは、行動が完結したときを100%とした場合、「25%できた段階でほめましょう」というものです。
100%できてからほめようとすると、多くの場合、子どもが途中で挫折してしまい、ほめる機会がなくなります。25%の段階で保護者からほめられれば、子どもは少しくらい気分が乗らなくても、ほめられたら嬉しいので、「まぁ、やってもいいか」と感じて最後までやり遂げる可能性が高まります。
言葉だけでほめるのではなく、非言語を使うことも効果的です。たとえば、ハイタッチをする、指でOKサインを出す、頭をなでるなどです。言葉でほめられることが恥ずかしいという子どももいるので、この非言語をほめ言葉と組み合わせてうまく使えるとよいでしょう。
「子育ての好循環」を作るためには、まず、子どもの「好ましい行動」を探す練習をしてみることが大切です。重要なのは、日常的に子どもをほめる環境を意識的に作ることです。そして、「肯定的な注目」は子どもにとって大きなパワーになるため、「肯定的な注目」で子どもと継続的に関わることで、「子育ての好循環」につながっていくでしょう。
このような、ペアトレの理論を用いた関わり方を児発・放デイの支援者の方が知っておくことで、家族支援が充実していきます。ペアトレを求めている保護者の方は多いですが、それを提供する場が少ないのが実状です。保護者の方が児発・放デイを選ぶときに、その機関がペアトレの実践をしていることを知ったら、そこに通いたくなるかもしれませんね。
今回はペアトレの「個別対応編」のポイントについてご説明しました。次回は「グループ編」について取り上げますので、またお会いしましょう。
※「グループ・ペアトレ」についてはこちら
※引用文献
井上雅彦 監修, 三田地真実・岡村章司 著 (2019): 保護者と先生のための応用行動分析ハンドブック. 金剛出版
※参考文献
阿部美穂子・深澤大地 (2011): 教育相談機関におけるグループペアレント・トレーニングの効果と参加者アンケートによるプログラムの妥当性の検討. 富山大学人間発達科学部紀要第5巻第2号 pp. 29-39.
深澤大地 (2017): 地域の公的機関が協働して実践するペアレント・トレーニングの効果 -地域の体制づくりとプログラムの実践. 東京福祉大学・大学院紀要第8巻第1号 pp. 15-24.
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(執筆:発達ナビ編集部)
以上、個別支援におけるペアトレのポイントを深澤先生に解説していただきました。
「ペアトレの概要から効果・種類・相談先」についてはこちらで解説していますので、ぜひ併せてご確認ください。
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