更新日:2026/6/17
「子どもの言葉が出ない・遅い」という相談への受け答えに悩むことはありませんか? 今回は、子どもの背景を探るアセスメントの視点や、具体的な会話の進め方のポイントを、臨床心理士・公認心理師の浜内彩乃先生に解説していただきました。
※浜内先生執筆のこれまでの記事はこちら
児童発達支援の支援者は、保護者の方から「うちの子、言葉が出ないんです」「同じ年の子と比べて、言葉が遅い気がして…」という相談を受けたことがあると思います。
このような相談は、保護者の方にとって非常に深刻で、不安の大きいものです。
支援者として重要な役割は、保護者の方の不安に共感しながら、その子の「言葉が出ない・遅い」という現象の背景にある本当の原因を見極め、その子に適した具体的な支援方法を提案することです。
「言葉が出ない」という現象は同じでも、その背景にある要因は複数考えられます。たとえば、次のようなものです。
■ 子どもが言葉の意味を理解していない(理解語彙が少ない)
■ 口や舌の動きが未発達である(口の働きの遅れ)
■ 言葉を使う必要性を感じていない(コミュニケーションの必要性を感じていない)
■ 言葉を学ぶ環境が不足している(学習不足)
■ 大人の行動と自分の行動を「つなぐ」という感覚が乏しい(共同注意の遅れ)これらは異なる要因のため、対応方法も変わります。
言葉が出ない理由が「理解語彙が少ない」のであれば、子どもが言葉を理解できるような環境を整える必要があります
一方、理由が「コミュニケーションの必要性を感じていない」のであれば、保護者の方が子どもの要求を先回りせず、子どもが言葉を使わないと困る状況をつくることが重要です
支援者のアセスメント力が問われるのは、まさにこの部分です。
また、重要な注意点として、今回のケースでは、まずは聴力などの身体機能に障害がないかを確認してから、以下の相談援助を進めていく必要があります。
次項からは、「保護者と支援者の会話例」を交えながら、相談援助の進め方を三段階に分けてご説明していきます。
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まずは、「保護者の不安を受け止め、関係づくりを行う」ことが大切です。
◎保護者
実は心配なことがあるんです。うちの子、同じ月齢の子と比べて言葉が出ないんですよ。このまま話せるようにならないんじゃないかって、毎日不安で…。 |
◎支援者
お子さんの言葉について心配されているんですね。そのお気持ちよくわかります。心配されるのは、お子さんのことをしっかり見ている証拠だと思います。 |
●支援者が行っていることの解説
この時点で支援者は、まず保護者の気持ちを否定せず、「その不安は自然なものだ」という基本的な共感を示しています。
また、「心配している=子どものことをよく見ている」というポジティブなフレーミングをすることで、不安な気持ちを少し軽くしています。
ここでの目的は、保護者に「この支援者なら、安心して相談できる」と感じてもらうことです。第二段階からが、本格的なアセスメントの始まりです。支援者は、保護者の話から「子どもの言葉が出ない・遅い」という現象の背景にある要因を探っていきます。
◎支援者
お子さんは今、何か言葉を発することはありますか? たとえば、「ママ」とか「ワンワン」とか、そういった一語でもいいのですが。 |
◎保護者
あ、「ママ」とか「ワンワン」とか「ブーブー」とか、一語はけっこう言ってますよ。ただ、同じ月齢の子は、もっと長い文章を話してるなって…。 |
一語は出ている → 言語機能が完全に障害されているわけではない
二語文が出ていない → 発話の長さが短い
保護者が他の子と比較をしている → 比較のなかで不安が生まれている
◎支援者
一語はけっこう出ているんですね。それは、お子さんが「音を出す力」と「いろいろな言葉」を知ってるということですね。では、お母さんの言っていることを理解できていますか? たとえば、「ワンワン、どこ?」と聞いたときに、ワンワンを指差したり、ワンワンがいるほうを見たりしますか? |
●支援者が行っていることの解説
ここで支援者は、重要な転換を行っています。「言葉が出ない」という表現から、「理解語彙」という違う視点の質問に移しました。子どもが言葉を「発話する」ために必要な前段階が「理解」だからです。
もし理解語彙が少なければ、対応方法は「言葉を理解させる環境をつくること」になります。一方、理解語彙があるのに発話がなければ、別の要因を探る必要があります。◎保護者
あ、それはしますね。「ワンワン、どこ?」って言うと、その辺を見回したり、指を差したりします。絵本でも、「ママはどこ?」って聞くと、ママの絵を差します。 |
指差し指示に応じている → 言葉を理解している可能性が高い
名前への反応がある → 対象と名前が結びついている可能性が高い
以上のことから、理解語彙がある程度存在する可能性が高い
●支援者が行っていることの解説
支援者は、保護者の回答から、「この子の理解語彙は比較的発達している」と判断しました。これにより、言葉が遅い背景として「理解語彙の不足」を除外できました。◎支援者
ママの言うことをよく理解していますね。では、食べるときに何か苦手なことはありますか? たとえば、飲み込むのに時間がかかるとか、よだれが多いとか…。 |
●支援者が行っていることの解説
ここで支援者は、「口の働きの遅れ」という別の可能性を探っています。
言葉は舌や唇、口蓋などの複雑な動きを必要とします。もし、これらの器官の働きに遅れがあれば、たとえ子どもが「話したい」と思っていても、正確な発音ができず、結果として「言葉が出ない」ように見える可能性があります。◎保護者
あまり気になったことはないですが…。 |
◎支援者
そうですか。実は、飲み込むときの舌の動きと、言葉を発するときの舌の動きは、同じ筋肉を使っています。ですのでお聞きしてみました。 |
●支援者が行っていることの解説
支援者は、ここで「舌の食べる動きと話す動き」に関する専門知識を保護者に伝えています。この関連性を説明することで、保護者の理解度が深まり、これが今後の「家庭での観察ポイント」になるかもしれません。支援者は、子ども自身の問題だけでなく、親子間の相互作用についても確認します。
◎支援者
「お水が飲みたい」とか、「おやつが食べたい」とか、「何かほしい」ときに、お子さんはどうやって意思表示をしていますか? |
●支援者が行っていることの解説
子どもが言葉を使う必要性を感じているかを確認しています。
もし、保護者が要求を先読みして、「あ、お水がほしいんだな」と判断し、言葉を発する前に水を与えてしまったら、子どもは「言葉を使わなくてもママがわかってくれる」と学習します。そうすると、言葉を使う必要性を感じなくなり、発話が増えません。◎保護者
そうですね…。大体、指を差したり、「ん、ん」って言ったり、あとは泣いたりですね。「ほしいのかな」って思ったら、「これ?」って確認して、ほしいなら「どうぞ」って与えちゃいます。 |
子どもは、指差しや身振りで意思表示をしている
保護者は、子どもの指差しや身振りから意図を読み取り、要求を叶えている
●支援者が行っていることの解説
支援者は、保護者の対応は「親切」ですが、実は「言葉を使う必要性を減らしているかもしれない」ことに気がつきました。しかし、その可能性をいきなり指摘したら、保護者は落ち込むかもしれません。
ここで支援者に必要なのは、保護者の対応を否定するのではなく、その対応の結果が、「実は言葉の発達を遅らせている可能性がある」ことを、丁寧に説明する力です。◎支援者
そうですか。実は、お母さんがお子さんの要求を読み取って叶えてあげるのは、とてもやさしい対応なんです。知らず知らずのうちにされていたと思いますが、言葉の発達の視点からすると、ちょっと工夫ができるかもしれません。 |
◎保護者
えっ、そうなんですか? |
◎支援者
はい。言葉を話せるようになるためには、「言葉を使わないと、自分のほしいものが手に入らない」という経験が大切なんです。今のやり方だと、お子さんは「指を差したり、『ん、ん』って言えば、ママがわかってくれる」と学習をしています。そうすると、言葉を使う必要性を感じなくなってしまうんです。 |
◎保護者
あ、そんな感じでいいんですか? |
◎支援者
はい。ただし、ここで大事なのは、お子さんが「ん、ん」と言ったときに、「あ、お水がほしいんだな」と見守るのではなく、「何がほしいの? お水? おやつ?」と聞いて、お子さんが「ん(お水)」「ん(おやつ)」と少しでも話そうとするのを待つ、ということなんです。 |
●支援者が行っていることの解説
ここで支援者は、保護者の行動を具体的に変える提案をしています。そして、保護者も「それだとできそう」という反応を示しています。
支援者の役割は、保護者を責めることではなく、その保護者の状況のなかで「できる対応」を一緒に考えることです。支援者は、保護者の「要求を先回りする対応」が知らずのうちに「子どもが言葉を使う必要性を減らしている」という事実を、保護者を責めずに、丁寧に説明しています。
保護者の「よかれと思った対応」が、「実は発達を遅らせているかもしれない」と指摘されることは、自身の子育てを非難されたと感じることもあるでしょう。
支援者は、この困難を乗り越えるために、以下のような配慮をしています。
保護者の対応を最初に「やさしい対応」とほめる
「知らず知らずのうちに」という表現で、保護者の責任を軽減する
保護者の対応のポジティブな側面(例:子どもをよく見ている)を認める
相談援助により「気づき」や「学び」があることで、保護者は「受身の立場」から、「能動的な支援者」へと変わります。
その現象の背景にある複数の要因を、丁寧に探ること
それぞれの要因に基づいて、具体的で実行可能な対応方法を提案すること
その過程を通じて、保護者が「子どもの発達についての理解」と「親として何ができるか」を気づくようにすること
保護者と支援者が、同じ方向を向いて、子どもの発達を支援していく関係を築くこと
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(執筆:発達ナビ編集部)
以上、「子どもの言葉が出ない・遅い」ケースへの具体的な会話例のポイントを浜内先生に解説していただきました。
アセスメントに役立つツールとして、LITALICO発達ナビには研修教材サービスがあり、「相談援助」に役立つ保護者支援の解説動画をご用意しています。
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保護者のお悩み別に分類しているため、実際に受けた相談内容をもとに、参考にしたい動画を探すことができる
◎お悩みへの解説動画のテーマ

研修教材サービスには、上記以外に「アセスメントに役立つ整理シート」や「支援に関する研修動画」などもございます。ご興味のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。




浜内彩乃(はまうち・あやの):
「大阪・京都こころの発達研究所 葉」代表、京都光華大学看護福祉リハビリテーション学部准教授。臨床心理士・公認心理師・社会福祉士・精神保健福祉士などを保有。著書は『発達障害に関わる人が知っておきたい「相談援助」のコツがわかる本』(ソシム)など多数。
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