更新日:2026/7/2

【インタビュー】3度のM&Aを経験したオーナーに聞く。事業継承は「次へのステップ」を踏み出すための前向きな選択肢

障害福祉サービスを立ち上げ、日々現場と向き合う中で、「このまま一人で事業を続けて良いのだろうか」「制度の変化に対応しきれるだろうか」と悩むオーナー様は少なくありません。

今回は、実際に3度の事業継承(M&A)を経験され、現在は自立援助ホームの全国展開や農業と福祉の連携事業など新たな挑戦をされている株式会社じどう 代表取締役の村形様にお話を伺いました。事業を他者へ引き継ぐに至ったリアルな背景や、「サービスを継続するため」の教訓について語っていただきます。

  • 目次

    今回インタビューさせていただいた方:
    株式会社じどう代表取締役 村形 慶法様

    HP:https://jidosystem.net/

    2011年に独立してNPO法人を設立後、児童発達支援や放課後等デイサービス、就労継続支援など幅広い障害福祉サービスを開設・運営。

    これまでに3度の事業継承(会社譲渡・事業譲渡)を経験。現在は株式会社じどうの代表として事業の「選択と集中」を行い、埼玉県を中心に全国(東北・九州エリアなど)で35の自立援助ホーム等※を運営している。※2026年6月時点

    製薬業界から福祉の世界へ。想いで広げた事業の壁

    ──まずは、村形様が福祉事業を始められたきっかけを教えてください。 

    私はもともと製薬関係の仕事をしていましたが、学生時代のボランティア活動などで子どもたちと関わった経験が忘れられず、27歳の時に児童養護施設へ転職しました。その後、2011年に独立してNPO法人を立ち上げ、児童発達支援や放課後等デイサービスなどを順次開設していきました。

    子どもたちを支援する中で、「この子たちが大人になった後の生活を支える場所が必要だ」と強く感じるようになり、障害者グループホームや就労継続支援B型事業なども開設し、事業を広げていきました。

    1度目の譲渡:従業員からの「クーデター」

    ──想いを持って事業を拡大される中、なぜ1度目の「事業譲渡」を決断されたのでしょうか?

    事業の種類が増え、現場のスタッフとの間でマネジメント面でのすれ違いが生じてしまったことがきっかけです。

    現場から「村形じゃもうダメだ、俺たちがやる」といわゆるクーデターのような声が上がり、私自身も心身ともに参ってしまった部分がありました。しかし、無理に私が抱え込むよりも、現場を知る彼らに任せた方が上手くいくかもしれないと考えました。そこで、グループホームや就労支援などの一部の施設を、現場の従業員へ引き継ぐ形で1回目の事業譲渡を行いました。

    2度目の譲渡:子どもたちを守るため、より大きな組織へ託す

    ──1回目は従業員の方へのバトンタッチだったのですね。2回目の譲渡はどういった経緯だったのでしょうか?

    大きな転機となったのは2018年の報酬改定です。この改定で単価が大きく下がる見通しとなり、「今の規模のまま自社単独で支援を続けていくのは限界がある」という強い危機感を抱きました。

    子どもたちへのサービスを途切れることなく継続していくためには、自社での運営にこだわるよりも、より規模が大きく、安定した運営基盤を持つ他社に委ねる方が子どもたちやスタッフのためになると判断したのです。

    この時、はじめてM&Aの仲介会社に相談し、最終的に障害福祉業界への専門知識や実績が豊富な仲介会社にお願いすることにしました。業界特有のルールや動向を正しく理解しているパートナーを選ぶことは、事業の価値を正しく評価してもらい、安心して事業を引き継ぐために非常に重要だと実感しましたね。

    3度目の譲渡:本当にやりたい支援に「選択と集中」する

    ──そして3回目は、過去2回とは少し目的が異なったとお聞きしました。

    はい。2022年に行った3回目の譲渡の目的は、明確に「選択と集中」でした。

    これまで様々な事業を展開してきましたが、私が本当にやりたいことは「家庭環境などで生きづらさを抱える子どもたちが、大人になった後の生活を支える場所(自立援助ホームなど)を作ること」でした。

    そこで、児童発達支援の2施設を事業譲渡しました。現在は展開する事業を絞り、譲渡によって得た資金や時間を活かして、埼玉県を中心に東北や九州エリアなど全国で35の自立援助ホーム等※を運営するまでに成長させることができています。※2026年6月時点

    ※現場で働く職員の皆様のインタビューからは、村形様の想いが浸透した温かい施設の雰囲気が伺えます。
    株式会社じどう 職員インタビュー(採用サイト)はこちら

    経験者だから語れる。後悔しないM&Aのための4つの教訓

    ──ご自身の「本当にやりたい支援」を実現しつつ、既存の利用者や従業員の環境も守るための、前向きなバトンタッチだったのですね。最後に、これから事業承継やM&Aを検討されるオーナー様へアドバイスをお願いします。

    私の3回の経験からお伝えできるポイントは大きく4つあります。

    1. 事業承継という「選択肢」を常に持っておくこと
      報酬改定など、業界のルールは常に変化します。もし私自身が「事業の引き継ぎ」という方法を知らなかったら、事業の継続自体が危ぶまれていたと思います。利用者の居場所や従業員の働く場を守り抜くための選択肢として、日頃から意識しておくことが大切です。

    2. 専門家をしっかり頼ること
      仲介会社に任せきりにするのではなく、弁護士によるリーガルチェック(契約書の確認など)は必ずご自身でも依頼すべきです。後からトラブルが出ないよう、万全の準備が必要です。

    3. 引き継ぎ期間は短く設定する
      譲渡後の引き継ぎ期間はだらだらと延ばさず、短期間に区切ってサッと離れるのがお互いのためになります。現場に旧トップと新トップが混在する状態は、残る従業員を混乱させてしまいます。

    4. 引き継いだ後のキャリアを心配しすぎない
      「事業を手放したら、自分の仕事や居場所がなくなるのでは」と不安に思う方も多いですが、心配いりません。バトンタッチした後は自由な時間が増えますし、これまでの立ち上げや現場運営の経験があるからこそ、次の新しい挑戦はもっとスムーズに、効率的に進めることができるはずです。

    ──事業継承は決して「諦め」ではなく、利用者へのサービス提供を途切れさせず、オーナー様自身も新たな一歩を踏み出すための「前向きな選択肢」であることがよく分かりました。村形様、本日は貴重なお話をありがとうございました! 


    今回のインタビューでも語られていたように、事業継承(M&A)は決してネガティブなものではありません。大切な利用者や従業員の環境を守りつつ、オーナー様ご自身も新たな一歩を踏み出すための「有効で前向きな選択肢」です。

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