更新日:2026/6/9
着席できない子やお友達にぶつかってしまう子など、気になる行動の背景には「感覚の未発達」が関係することがあります。この記事では、発達の土台となる「感覚統合」の特徴やケース別の原因、支援環境を整えるためのポイントを、こども発達支援研究会の前田智行先生に解説いただきました。
【この記事のポイント】
脳の成長に必要な要素:脳が成長するために必要なものは、「物質的栄養(食事)」と「適切な感覚情報」の2つ。
感覚運動体験の導入:ブランコや手押し車などの全身運動を組み込み、感覚の発達を効果的に促す。
組織内での理由共有:「やる気」ではなく「感覚の問題」として捉えることで、共通言語を作り、対応のばらつきを防ぐ。
児発・放デイの現場では、スタッフから「なぜ、あの子はよく歩き回るのだろう?」「お友達とのトラブルが絶えない理由は何だろう?」といった相談をされることもあると思います。その際、どのようにアドバイスすべきか、悩むことはありませんか?
実は、これらの行動は「わがまま」や「性格」ではなく、「感覚の未発達や偏り」が原因となっているケースがあります。行動の背景には、必ず理由(脳機能や環境)があるのです。
この記事では、子どもの行動の背景にある「感覚統合」の仕組みを説明し、現場で明日から使える具体的な観察と支援のポイントをご紹介します。専門知識を組織で共有し、子どもの笑顔を増やしながら、スタッフの負担も減らしていきましょう。
「脳を育てる」という言葉をよく耳にしますが、脳の成長には一体どのような要素が必要なのでしょうか?
脳が成長するために必要なものは、「物質的栄養(食事)」と「適切な感覚情報」の2つです。栄養は食事からとりますが、体で感じ取った感覚情報も、脳内で処理されて脳の発達に使われます。
この時、全身の感覚器官から脳に入ってきた複数の情報を整理し、適切に処理できるようにする過程を「感覚統合」と言います。
たとえば、ポケットからスマホを取り出すとき、私たちは直接目で見なくても、スマホに触れた瞬間に「これはスマホだ」とわかります。
なぜ、直接見ていないのに、スマホだと認識できるのでしょうか?
それは、過去に「スマホに触った経験(触覚)」と「目で見て操作した経験(視覚)」が統合され、頭の中で触り心地やイメージを思い浮かべることができるからです。
このように、複数の感覚(視覚、聴覚、触覚、前庭感覚[ぜんていかんかく]、固有感覚など)を同時に使うことで、人間は「想像力」という高度な力を獲得し、コミュニケーションや生活スキルの向上につながっています。
定型発達の子どもは、日々の遊びの中で自然とこれらの感覚を統合していきます。
しかし、発達に特性のある子どもは、感覚が過敏であったり、逆に反応が鈍い(感覚鈍麻[どんま]の)様子が見られることがあり、この感覚発達がうまくいっていないことが多くあります。そのため、身体や心をコントロールするための「発達の土台」がしっかり築かれていないことが多いのです。
だからこそ、現場の支援では単に言葉のみで注意するのではなく、意図的に子どもたちに合わせた「感覚運動体験」を設けることが重要になります。専門的な視点で運動体験を提供することで、彼らの発達の土台作りをしっかりと促していくことができるのです。
「子どもの行動」をただ止めるのではなく、「感覚」の視点で分析するとまったく別の事実が見えてきます。現場でよく直面する3つのケースを考えてみましょう。
授業中や活動中に、立ち歩いてしまったり、椅子をガタガタと揺らしたりして座っていられないケースこれを大人の目線で見ると、「集中力がない」「落ち着きがない」と捉えがちです。しかし、これは「前庭感覚(平衡感覚・揺れを感じる感覚)の未発達」が背景にあるかもしれません。
前庭感覚には、脳の覚醒を調整したり、姿勢を保つための筋肉の働きを促す役割があります。この感覚への反応が鈍い(感覚鈍麻の)子は、じっと座っていると脳の覚醒が下がってしまい、ボーッとしてしまいます。そのため、無意識に脳をスッキリさせようと、椅子をガタガタ揺らしたり、歩き回ったりして、自ら揺れ刺激(自己刺激)を入れている状態なのです。
決してわざと立ち歩いているわけではないのですね。
廊下などを走ってお友達にぶつかってしまったり、力加減がうまくできずに相手を泣かせてしまったりするケースこうした場合、「乱暴な子」とレッテルを貼ってしまいがちですが、背景には自分の筋肉や関節の動きを感じ取る「固有感覚の未発達」が隠れているケースがあります。
固有感覚が育っていないと、自分の身体の動かし方や力の入れ具合(ボディイメージ)がうまくつかめません。そのため、空間の中での適切な距離感がわからずにぶつかってしまったり、本人が思っている以上に強い力が出て、「叩いた!」と誤解されてしまったりするのです。
これもまた、脳が身体をコントロールしきれていないSOSサインだと言えます。
暑い季節になると、教室などの床で寝転がり、「気持ちいいから動かない」と言うケース「授業中なのにやる気がない」と思われがちですが、これは「触覚」や「温冷感覚(熱さや冷たさを感じ取る感覚)の感覚鈍麻」による「体温調節の困難」が背景にあるかもしれません。
温冷感覚が感覚鈍麻だと、暑くても体温を下げるために汗をかく機能が働きにくく、体に熱がこもってしまいます。自分ではどうしていいかわからず、少しでも冷たい床に触れる(触覚刺激を得る)ことで、体温を下げようとする無意識の行動なのです。
「わがまま」ではなく、身体の特性上、「やめたくてもやめられない」状態なのですね。このような背景要因に気づければ、現場のスタッフも「ダメでしょ!」と注意するのではなく、「なるほど、だから動いちゃうんだね」と共感し、建設的な支援に意識を向けることができます。

子どもの行動の背景が見えてきたところで、実際に事業所としてどのように「支援環境」や「プログラム」をデザインすればよいでしょうか?
スタッフ全員が、「同じ目線で支援できる環境」を作るための3つのポイントをご紹介します。
子どもの気になる行動を、スタッフの「気合」や「我慢」で解決するのではなく、「仕組み」や「物理的な環境の調整」で対応しましょう。たとえば、床でゴロゴロしてしまう子(ケースC)には、無理に起立させるのではなく、
アイスノンや冷却グッズを渡す
エアコンの風が当たる席や当たらない席を選ばせる
といった配慮が必要です。
子ども自身に環境を選ばせることで安心感が生まれ、心身の安定につながります。
プログラムの中に、感覚の発達を効果的に促す全身運動を意図的に組み込んでいきましょう。
ブランコ、トランポリン、大波小波(大縄遊び)、シーツブランコなど
手押し車、綱引き、ダンボール戦車などの力を使う遊び
特別な道具がなくても、日常的な運動を少し工夫するだけで確かな感覚刺激が入ります。遊びを通して揺れを経験したり、力の抜き方を経験したりすることで、結果的に着席できない行動(ケースA)や、ぶつかるトラブル(ケースB)自体が激減することもあります。
これが、事業所運営においては最も重要です。
子どもの突発的な行動が起きた際、スタッフの思考が「どうやって止めようか」になる前に、「あの立ち歩きは、前庭感覚の刺激を求めているのでは?」と仮説を立てる習慣を組織内で作りましょう。
「やる気の問題」ではなく「感覚の問題」として捉える——。この共通言語があるだけで、スタッフ間での対応のばらつきがなくなり、情報共有がスムーズになります。支援の目的が明確になることで、スタッフ自身の精神的な疲労感も軽くなるかもしれませんね。
支援方法のノウハウも大切ですが、目の前の子ども一人ひとりの状態を正しく読み解く「アセスメント力」を組織全体で高めることが、何よりも重要です。
■「困った子」ではなく「困っている子」と捉える
■ 弱点の克服より、強みを伸ばして自尊心を育てるこうした前向きな捉え方に基づき、子どもたちへ適切な「感覚運動体験」を提供していくことで、発達の土台作りを進め、誰もが安心できる、笑顔あふれる事業所を作っていくことができます。
ぜひ、明日からの事業所運営や、現場のスタッフ研修に感覚統合の視点を取り入れてみてください。子どもたちとスタッフの皆さんが、無理なく楽しく過ごせることを心から応援しています!
(執筆:発達ナビ編集部)
以上、感覚統合のポイントについて前田先生に解説いただきました。記事で言及される「組織全体でアセスメント力を高め、対応のばらつきをなくす」には、各スタッフの療育スキルや知識を一定にするのが理想です。
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「困った行動への関わり方」など、実際の支援場面などを基に支援の基本や具体的な手立てを段階的に学べる
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前田智行(まえだ・ともゆき):
一般社団法人こども発達支援研究会 代表理事。小学校・放デイでの勤務を経て、星槎大学大学院教育実践研究科にて修士課程終了。2020年より現職。専門は発達障害のアセスメントと指導実践。著書に『子どもの発達障害と感覚統合のコツがわかる本』(ソシム)などがある。
※専門家執筆による「相談援助」や「環境調整」などのコツをまとめた記事もございます。ぜひご覧ください。
相談援助とアセスメント:相談援助とアセスメントの基本とコツとは?
ペアトレ×個別編:児発・放デイのための「ペアトレ」入門【個別編】
ワーキングメモリ:【児発・放デイ】ワーキングメモリとは?
保訪×連携のコツ:【保育所等訪問支援】訪問先との連携・関係構築のコツ
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